2012年6月28日木曜日

2012/6/28のFunk 裏 Recommend

まいど。

2012年の半分が過ぎ去ろうとしている事実が受け入れ難い今日この頃ですが皆様いかがお過ごしでしょうか。
それにしても6月ってこんなに涼しかったっけ。


早速今週の「出てますよ」のコーナーに参ります。
最近出たばかりの新譜ですがiPodのリピートでひたすら垂れ流している最近のお気に入りです。
女性ヴォーカリストとジャズ・トリオとのコラボ・アルバムです。

ジャズ・トリオはバンド名をザ・シングと言います。
マッツ・グスタフソン(サックス、主にバリトン)、インゲブリクト・ホーテル・フラーテン(ウッドベース)、ポール・ニルセン・ラヴ(ドラム)の3人組でスウェーデン出身。
いわゆるフリーとかアヴァンギャルド・ジャズと分類される類いの音楽を、懐古趣味ではなく現代的に、気合いを入れて演奏している世界的なグループです。
ザ・シングというバンド名はドン・チェリー(tp)の曲名に由来するものです。

女性ヴォーカリストはネナ・チェリーと言います。
そのドン・チェリーの娘であり80〜90年代にはポップ・ミュージックの世界で一世風靡した才女であります。

その2組が合体して、実に成熟しきったロックでジャズなサウンドを聴かせます。
カヴァーが中心で、スーサイドとかストゥージズとかMFドゥームとかオーネット・コールマンとかポップの裏スジを歩んできた変態達の曲が選ばれています。
トロンボーン、チューバといったブラスも加わっていて、ワールド・ルーツ音楽としてのブラス・バンド的なエッセンスも入ってます。

音の方を表現するのはもう少したくさんのスペースが必要なんですが、フリー・ジャズとかパンク・ロックとか色んなものが混じりつつ、現代最新の最良の部類に属する音楽としてレッキとして成立しているような完成度です。
甘くはないですが、苦くて逞しくてふてぶてしい音楽が好きな人はぜひという感じです。

48歳になったネナ・チェリーからは、もちろんあの頃みたいなハジけた感じは無いんですけど、代わりに説得力というか肝の太さというか成熟した女性だけが発することができる言霊のチカラ、深み、みたいなものを感じずにはいられません。

47歳のマッツ・グスタフソンが発する熱量もタダモノではない深さです。
ハリー・カーネイ、ハミエット・ブルーイット、ジョン・サーマンあたりの「正しい」バリトン・サックス吹きの系譜を感じさせる彼のバリサクは何というか、音色そのもののなかで「肉」と「木」が圧縮されせめぎあうような密度と意志が表現されているようです。
「ケツの穴から手ェ突っ込んで奥歯ガタガタ言わしたろか」というのは関西人なら誰でも知っている文句ですが、僕の場合こういうバリサクを聴くとケツの穴からスリコギを捩じ込まれているような気分になります。
安アパートの窓なら簡単に割れるくらいの音圧も感じますね。


これ最高だなあと思いつつ僕が感じたのはこういうことです。
ネナ・チェリー捨てたもんじゃないなあということ。
マッツ・グスタフソンも捨てたもんじゃないなあということ。
フリー・ジャズも捨てたもんじゃないなあということ。
おっさんおばはん捨てたもんじゃないなあということ。
そして、世界中の捨てたもんじゃない人々が、固く握りしめた手を空高く突き上げたくなるような衝動に満ちた、実に痛快な音楽だなあということ。

Neneh Cherry & The Thing - Dream Baby Dream



またアツくなっていっぱい書いちゃった。
で、スリコギってどれくらいの太さですかね?




では今週のFunk 裏 Recommendの音源お試しコーナーです。
もはやAmazonの在庫も無いですが、今後再発される見込みも薄いので欲しい人はググってみた方が良いかと。

1曲目はこんな感じのブラスが映えてるファンク。

Reuben Wilson - What The People Gon' Say

渋いハーモニカはテナーと兼任のバディー・ルーカスさん。
ヴォーカルは浮いてる感ぬぐいきれませんが添え物的に聴く感じで。

次の曲も最高です。
ホーン奏者としてファンク・バンドやってたらこんな曲カヴァーしたいよね。
で、コーラスも担当しちゃいますみたいな。

Reuben Wilson - Tight Money


ところでこのアルバムをCDで再発したシカゴのレコード・ショップ、Dusty Grooveのレビューにはこんな風に書いてあります。
「ハモンド・ヒーロー、ルーベン・ウィルソンのモンスター・ファンク! はっきり言って彼の他のアルバムとはひと味違うハード・バーニング(hard-burning)でバッド・ウォーキング(bad-walking)な曲満載!」

いやはや英語ってカッコいいですよね。
オレも使ってみたいよこんなキーワード。

「すいません海鮮五目ヤキソバ、ハード・バーニングで」とか
「いやもう親父が酔っぱらっちゃってバッド・ウォーキングでさあ」とかそういう感じでしょうか。

続いてディスコの気配しのびよるタテノリなファンク・ナンバー。

Reuben Wilson - Got To Get Your Own


このトランペット・ソロってジョー・ニューマンですよね?
ジョン・ファディスかな。
いずれにせよ存在感ありますね。
ヘタウマな感じのテナー・ソロはピー・ウィーです。
この人は常にヘタウマ感だしてるのが魅力なのです。

続いてルーベン兄貴のテーマ演奏が「つま弾く」感じのジラしプレイでモヤモヤしてくる曲。
指で背中に「スキ」って書かれた遠い日のこと思い出してしまいましたよ。

Reuben Wilson - Stoned Out Of My Mind


さっきの話じゃないけど“Stoned Out Of My Mind”って“正体なくすほど酔っぱらってる”って意味だそうですよ。
つうことはやっぱりBad Walkingって千鳥足ってことで良いんじゃん。と変な納得をしてしまいました。

最後は兄貴のBlue Note時代の未発表曲で。
リー・モーガン(tp)、ジョージ・コールマン(ts)、グラント・グリーン(g)、レオ・モリス(ds)というメンツだから『Love Bug』セッションの1曲ですね。
サム&デイヴのカヴァーやってます。

Reuben Wilson - Hold On I'm Comin'

リー・モーガンにあやまれ、と言いたくなる軽薄さがスキ。

ではまた頑張りますね。

2012年6月22日金曜日

2012/6/21のFunk 裏 Recommend

まいど。

前号のサクブラ本誌でギル・エヴァンスの記事を色々と書かせてもらった際に持ってるCDなんかを聴きかえす機会があったんですけど、なかでもやっぱりこれエエなあたまらんわとかいいながら何度も何度も聴いたのが『Plays The Music Of Jimi Hendrix』に入ってる「Castles Made Of Sand」でした。

このアルバム、ギル・エヴァンス以外のメンバーが編曲してる曲が多いんですけど、「Castles Made Of Sand」はギルのアレンジで、その表情たるや風の中にある目に見えぬ錦糸を集めて布を織りました、という佇まいの構成美と繊細さ、脆さ、ノスタルジアであって、個人的には後期ギルのベスト・トラックではないかと感じているのです。
いちばん尖ってた時期のエリントンを彷彿させますね。


で、この極めて幻想的な曲の中で極めて人間的な肉声を響かせるテナー・サックス・ソロがあまりにも最高で、それがビリー・ハーパーという漢なのであります。
漢と書いてオトコと読むのであります。

肉体労働者のように無骨でたくましく、無頼で寡黙で、それでいて優しいという実に高倉健的なイメージを、そのサウンドから勝手に抱いてるのですが、背が高くて精悍なルックスもイメージにぴったりなのです。
基本的には70年代に大勢いたコルトレーン派のひとりなんですけど、まだ新人の頃からギル・エヴァンスが彼を気に入ってバンドに使っていたのは実に興味深い。

前書き長くなりましたけどなんでそんな話なのかというと、今週久しぶりのビリー・ハーパーの来日公演情報が流れてきたんでウレシくなってしまった訳で。
おまけにジョージ・ケイブルズ!セシル・マクビー!エディー・ヘンダーソン!ヴィクター・ルイス!という70年代ジャズ好きにはとってもたまらないバンドだった訳で。
それでつい言いふらしたくなってしまった訳です。

まあそう言わず聴いてみてください。

Gil Evans - Castles Made Of Sand/Foxy Lady


YouTubeクオリティーですけど、この曲の繊細さ奥深さはヘッドホンで聴いてもらわないと分からないのではと思います。

柔らかく微細にぶつかり合うハーモニーが恐ろしい奥行きと非現実感を作り出していて、触れればたちまちに壊れてしまいそうな脆さもしびれるような緊張を生んでいます。

ちなみにメドレーになってるこの曲の後半はFoxy Ladyのカヴァーで、アレンジはウォーレン・スミスです。
しかしこんな曲書くジミヘンも天才ですよね。

デビュー・アルバム『Capra Black』からもう1曲いかがですか。

Billy Harper - Soulfully, I Love You/Black Spiritual Of Love

僕の場合はもう曲名だけでも昇天って感じなんですけど。





では今週のFunk 裏 Recommendのおさらいコーナーです。

ジャズ・ファンク道、ソウル・ジャズ道では避けて通れない大物、ジャック・マクダフですが、Cadetに吹き込んだ6、7枚の中じゃあこれがベストじゃないでしょうか。
1曲目。

Jack McDuff - The Heatin' System

なんでか知りませんが、この音源YouTubeにアップしてくれた人が中日ドラゴンズの映像をバックに使われており、ドラゴンズ見ながらマクダフ聴くというなかなか不思議な体験ができますよ。
天才ちゃうか思いますよね。

続いて同じアルバムからビル・ウィザーズのカヴァー。
このあたりさすがに70年代のサウンドになってますね。

Jack McDuff - Ain't No Sunshine



本当はピー・ウィー・エリス作曲の「The Prophet」って曲貼付けたかったんですけど、YouTubeに上がってなかったので諦めました。
ええ諦めましたとも。

仕方ないので同じ72年になぜかジョニー・ハモンドもカヴァーしてる「The Prophet」でも貼り付けておきます。

Johnny Hammond - The Prophet

最強にファンキィですよね。
アレンジがピー・ウィーで、途中のテナー・ソロはメイシオ・パーカーです。
72年録音なんですけど、70年代以降にメイシオがテナー吹いてること、オルガン・コンボで演奏してること、結構珍しい客演かと。


マクダフのCadet音源はいっぱいあるんですけど紹介してるとキリないので、76年のCadet(Chess)最終作『Sophisticated Funk』からの1曲もどうでしょう。
何エロ画像貼り付けてるねんと思うかもしれませんが、これがジャケです。

Jack McDuff - Ju Ju


中古盤屋でホリホリしててこのジャケ出てくるとウワって思うんですが、期待して中身聴いてみると割とシャバシャバな感じで大したことないという、ジャケが全てのピークだったというパターンです。
まあこの時代はしょうがない。


あの、コラムの中でホッピーって書きましたけど、ホッピーって何やねんという方がおられるのはないかと思われ。
ホッピーというのは関東地方の大衆居酒屋とかにはだいたいある、そしてコンビニとかスーパーにも売ってるノン・アルコール飲料で、どうやって使うかというと、ビアジョッキなんかに安い焼酎をどばどば入れて氷をドカッと盛ったところに注ぎ込むと、アレ不思議ビールと酎ハイの間みたいな味になるというヤツです。
これが美味いわすぐ酔えるわで最高なのです。

気の利いた居酒屋にはホッピー・セットなるメニューがあって、ホッピーの瓶と氷の入ったジョッキと焼酎が出てきます。
ほんで焼酎の追加を頼む時は「ホッピーのナカおかわり」と言うのが通で、追加のホッピーを頼む時は「ソトください」とか言うのです。
たまに質の悪い居酒屋行くと最下層の粗悪な「ナカ」が出てきて、そういうときは悪酔いして最悪な二日酔いになります。
そういう焼酎を僕らは「メチル」と呼んでいました。

ホッピー未体験の方はAmazonで買えますので、ぜひチャレンジしてみてください。
なんだかファンキィな自分に生まれ変わったような気持ちになれますよ。
そしてドラゴンズ見ながらマクダフ聴くのです。



また頑張ります。

2012年6月14日木曜日

2012/6/14のFunk 裏 Recommend

まいど。

今日はビルボード・ライブでロバート・グラスパー・エクスペリメントを観てきましたよ。

となりの席にぱりっとした格好のサラリーマンが座ってたんですが、ライヴ開始直後からシエスタに入られてライヴ終了するまでずっとコックリさんだったのです。
なんですけど曲が終わって皆が拍手するたびにそれが義務であるかのように寝ながら弱々しく拍手してたのがオモロかったですね。
「もういい、君はよくやった・・・」ってやさしく背中なでてあげたかったのですが、もちろん僕は常識人なのでそんなことはしませんでしたよ。


ライヴの方はめちゃ良かったですねぇ。
なんというか「今」の音楽でした。
ロックとかクラブ・ミュージックの世界で生み出されている新しい音楽、ダブ・ステップとかネオ・シューゲイザーとかチル・ウェイヴとかと共鳴するような同時代性を感じさせてくれるようなサウンドでした。
そういう現在進行形の音楽が持っているヒリヒリ感がありましたね。
その類いのヒリヒリ感をジャズというジャンルにカテゴライズされているアーティストから感じるのはこのところあまり無かったことです。

ヒップホップとかR&Bとのクロスオーヴァーが特徴とされる彼の音楽ですが、それはもはやことさら言及するレヴェルでも無いと感じるほど血肉化されてしまっていて、そういうハイブリッド自体に斬新さは皆無だし特徴としてあげつらうことさえ陳腐なことのように思います。
それはもしかしたら当のヒップホップやR&Bが現在進行形のヒリヒリ感を失って久しい音楽であるから、ということも言えるのかもしれません(個人的にそうは思いたくありませんが)。

ともかく、ジャズであることとかその形式に拘泥しているようなオールド・スクールな連中は置いといてちゃんと音楽そのものを前進させようとする意思のチカラを感じる音楽でした。
我々の時代(世代)の音楽は我々自身で創造していく、というような。
そのことには全面的に賛同したいし共感を感じる部分でもあります。
その上で彼の中にもしジャズという音楽への愛があって、それがすでに語り尽くされたものではないということを証明する意思もあるのだとしたら、もっと喜ばしいことだと思うのです。


調子に乗ってえらい本気なこと書いてしまった。
ほかにもドラマーが超絶だったこととかグラスパーがずっとビンボー揺すりしてたこととか書きたいこと多いんですがまたの機会にしますね。

ともかく今年出たこのアルバムは必聴だと思いますよ。






では今週のFunk 裏 Recommendに参ります。

今週はこの連載2回目となるウディー・ハーマンのレビュー、しかもCD化されていないというダブル掟破りだったのですが、サクブラ編集長のリクエストにより書かせてもらいましたよ。

カヴァーのチョイスが節操無いアルバムってだいたいそうですが、このアルバムもイナタイ音が多いです。
先が丸くなった2Bくらいの鉛筆のようにイナタイです。

Woody Herman - Memphis Underground

これはハービー・マンのヒット曲のカヴァー。
どう考えてもビッグバンドでカヴァーするような曲じゃないんですけどね。
クラリネットはウディーさんでテナー・サックス・ソロはフランク・ヴィカリ、トランペットはビル・チェイスです。

次はプロデューサー/アレンジャーであるリチャード・エヴァンスのオリジナル。

Woody Herman - The Hut


ストリート臭ぷんぷんでカッコいいファンクですね。
サイケなギターはフィル・アップチャーチです。
何やらせても上手い。
ミュート・トランペットのソロがハリー・ホール、トロンボーンのボビー・バージェスをはさんでラストにかましてくれるのがビル・チェイスです。


ビル・チェイスがもっとキてるのがこちら。
オーラスで満を持して登場、見事な空中戦でおいしいところを全部持っていきます。

Woody Herman - Sex Machine


もう笑っちゃいますよね。
キャット・アンダーソンとかメイナード・ファーガソンとかもそうですが、凄まじいトランペット・ハイノートを体験すると笑いがこみ上げるのはなんででしょうね。



さてそんなビル・チェイスさんですが、71年にブラス・ロック・バンド、チェイスを結成して結構な人気を得ることになります。

あの、普通ブラス・ロック・バンドって言うとトランペットの他にもトロンボーンとかサックスとか、色んな音域の管楽器が入るもんですけど、チェイスはトランペット・オンリーの4管編成。
サウンドの厚みとかそういうのは無視してひたすら高音重視。
しかも4人ともハイノート・ヒッターしばりという超高校級のドSな編成。

おまえら/この高速エイト・ビートな/ロック・グルーヴにのって
このブリリアントで/エキサイティングな/超高音トランペットが
きゅいきゅい/きゅいきゅい/いうのが/好きなんだろぅ〜

リーダー、ビル・チェイスさんの言葉を妄想して代弁しまいました。
でもトランペット・プレイヤーとか高音好きのドMリスナーにはたまらない、ある意味マニアックなバンドですよね。

こんな感じ。
大ヒットした「黒い炎」です。

Chase - Get It On (TV Show, 1971)

暑苦しいですよね。
特にヴォーカルの熊みたいなやつが暑苦しいです。

同じTVショウの映像をもうひとつ。

Chase - Open Up Wide (TV Show, 1971)


チェイスさん(ホーン隊の右端)のリーダーシップというか自己顕示欲というかオレ様度がとんでもなく渦巻いてるのを感じますよね。
全てはオレがいちばんカッコ良く見えるための舞台装置、という感じの。
まあJBしかりアメリカのショウ・ビジネスというのは全部そんな感じですが。


そんなチェイスですが、結局バンドは3枚のアルバムをリリース。
年中ツアーする人気バンドになってたのですが、74年8月にバンド一行を乗せた飛行機が墜落、メンバーとともにチェイスさんも帰らぬ人となってしまいました。
あんなに空中戦が得意だったのに残念です。


最後に無くなる数ヶ月前のライヴ映像。
トランペット4本によるソロ回しには抱腹絶倒するしかありません。

Chase - Get It On (Live, 1974)


では今日はこのへんで。
笑いが少なかったですが、チェイスの映像観ればじゅうぶん笑えますので。
また頑張ります。


2012年6月10日日曜日

2012/6/7のFunk 裏 Recommend

まいど。

また更新が遅れましてすいません。
忙しくはないのですが、ただただダラけていました。
なんとか総選挙の影響では断じてありません。
気合いを入れ直して頑張ります。




早速今週の「出てますよ」のコーナー行かせてください。

レコード屋に行って<ソウルLP>の<S>のコーナをホリホリしているとたまに「元気してた?」みたいな感じで彼女の愛くるしいジャケット出てきてナゴム。という、なんというかソウル〜レア・グルーヴのレコード好きにとってのマスコット・ガール的な存在感の彼女がおりまして、それがスパンキー・ウィルソンという西海岸の女性シンガーなのです。

アレサとかロバータ・フラックみたいな大歌手の器じゃないし、アルバムだってポップ・ソウルという感じのカヴァーが多い感じで、どっちかといえば顔で売ってました系の彼女なのですが、レア・グルーヴというのはそういう非メインストリームなところに魅力を見いだすもんでありまして、Mother Recordsというところからリリースされた彼女の70年代初期のアルバム3枚は「なんとなく持っていたい」レコードだったのであります。

スパンキーという名前もおてんばっ娘的な響きでいいじゃないですか。


そんな3枚がこのたび日本だけで世界初CD化になったわけです。
これは1969年の2枚目『Doin' It』に入ってるヒット・シングル。

Spanky Wilson - You

カッコいい中にも、いっしょうけんめい歌います的な人柄の良さがにじみだすようで何とも応援したくなるファンクですよ。
パンチが効いてるホーンも最高。

3枚の中で1枚選ぶとしたらこの『Doin' It』でしょうか。
でも3枚とも愛すべきガールズ・ソウルの佳作なので、こういうの好きな人はぜひ。
集めたくなる紙ジャケ仕様のイイ仕事です。




関係ないですけど「ホリホリしてる」ってうのはレコード屋さんでアナログ・レコードを漁っている状態のことで、いいものを「掘る」ということです。
有名DJさまが最近良く使ってはるんですけど、カワイクていい言葉ですね。
せっかくなのでハナクソとかオカマには使わないでくださいね。


では今週のFunk 裏 Recommendの音源紹介です。

レア・グルーヴ的にはけっこうな有名盤のですが、たぶんそれ以外のファンの人は聴く機会はあまりないだろうな、というアルバムです。

でもコラム書くために久しぶりに聴いて、「ぬおおおお」とノケゾル瞬間が10回くらいあったこと、オレがクリエイターとか音楽家だったら絶対パクるというか参考にするというかサンプリングするだろうなと思ったこと、つまりそういう誰しも多かれ少なかれ持っているであろう創作欲求みたいなものが「ぬおおおお」と掻き立てられる作品であることは事実です。


1曲目はこんな感じ。

Dorothy Ashby - Myself When Young

エキゾティック、フォーキー、ファンキィ、とこっちのマインドを置き去りにして矢継ぎ早に遷移していく感じがまたニクいですね。

アルバムの中でも人気曲がこれ。

Dorothy Ashby - Wax  And Wane

なんでしょうこの美旋律、そして斬新なビート。
クリエイティブの権化みたいな曲だと思うんですけど。

イントロにカリンバが入ってますけど、EW&Fしかり、シカゴとカリンバの結びつきは深いですね。

Dorothy Ashby - Drink


この曲だって構造はじゅうぶんにサントラ的なんですけど、このメロと雄弁なヴォーカルの強度とアレンジが作り上げた世界感の完成度は異様です。

同じく凡庸なボサノヴァの形態を取りながら、非凡すぎる物語性を練り込んでしまった天才的な曲。

Dorothy Ashby - Heaven And Hell



この終末感とサウダージ感が骨身に沁みてくるような心がちぎれてしまいそうになるような世界はなんでしょう。
郷愁と忘却と幻想とが巨大な諦観と慈愛に包まれて葬られていくような。

ヴォーカルの最後のワンフレーズだけ、オフ・チャンネルに変える小ワザがオレにとってリチャード・エヴァンスが神である理由のひとつかもしれません。

アルバムのシメは再びファンキィに。

Dorothy Ashby - The Moving Finger


アレンジャー/プロデューサーとしてのリチャード・エヴァンスは、おそらくイージー・リスニング的なところから出発して、それが喜ばれるポイントを研究し尽くすと同時に芸術性をいかに共存させ続けるかを極めきった、というのが60年代末に達成したレヴェル。
で、さらにそこからカヴァーじゃないオリジナリティとか美旋律とかラテン的なエレメントとかを注入したとき、はからずも凡百のポップスを越えた芸術に仕上がってしまった、というような感じではないかと思います。


60年代に彼が組織し、プロデュース/アレンジを全て担当したザ・ソウルフル・ストリングスとかになるともう少しイージー・リスニング寄り。

The Soulful Strings - Comin' Home Baby



エヴァンスさんリーダー作も少しだけ出してますが、72年の『Dealing With Hard Times』はそんなイージー・リスニングと芸術がせめぎあうような何とも言えない味わいのナンバー揃いのインスト盤。



79年のアルバム『Richard Davis』はジャケットがたいへん残念なのですが、このナンバーはクラブ・シーンでも人気のブラジリアン・フュージョン。

Richard Evans - Capricorn Rising


このジャケットのことは「逆さ富士」と呼べばいいのでしょうか。




なんとか総選挙の話ですが、なんか色々と批判的な意見をTwitterとかで見かけますね。
でももしオレがいま20才前後とかで、バイトしてるだけのヒマな大学生とかだったとしたら果たしてあの狂騒にコミットしていたかって考えると、CD何枚か買って投票してワンルームの下宿で選挙のTV喰いいるように観ていた可能性がゼロとはいいがたいわけです。

投票したオシメン(ていうらしいよ)の順位があがって泣きながらスピーチしてるの観てTVの前でキタナい涙一緒に流してたかもしれない可能性が50%くらいはあるかなと思うわけです。
それで、もしそうだとしたら、それはそれでシアワセだろうな、と思うわけです。

あの娘の順位が上がったのに0.001%くらいはオレも貢献したのだという満足感を胸に、何ヶ月かはああ良かったなあなんて思いながら過ごせる、もしくは嫌な勉強もバイトも頑張れる、という効能があるならば、それはそれで良いんじゃないかと思うのです。

たとえその貢献が誰に気付かれることのない孤独なものであったとしても。


ひとりで何百枚もCD買ってしまう人が頭おかしいように言われますが、そんなの自分で稼いだカネ使って100倍の貢献度求めてるんだから放っといたれよと思うのです。
カネを出させて忠誠心をはかるみたいなのがダメというけれど、どんなジャンルにも追っかけみたいな人たちはいて、それこそアイドルから阪神タイガースまで、何の見返りもないことに勝手に年間何十万ものカネをつぎ込んで一緒に地方回ったりグッズ買ったりしている人たちがいるわけで、そういう人といったい何が違うの、と思うわけです。

その情熱をスポーツとか文化活動とか勉学とか仕事にまわせよと言われても、そういうところからハミだしちゃった人も多いわけで、こんなささくれ立った世界になかば勝手に生み落とされて、おまえらの世代に未来は無いとか年金は無いとか終身雇用の時代は終わったとか好き放題言われながらもヘラヘラ生きていくには社会にそれくらいのタワミがあっても良いんじゃないかと思うんですけどね。


ではまた来週頑張ります。


2012年6月2日土曜日

2012/5/31のFunk 裏 Recommend

まいど。
更新遅くなりましてすいません。

どうでもいいことですが昨日結構混んでる電車に乗ってたんですけど、横に座ってた30代くらいの白人女性のまあまあキレイ目な人がヒザのうえに置いたバッグの中の紙袋からひたすらイチゴを取っては食べ取っては食べしていたのが軽く衝撃的でしたね。
ふつう電車の中でイチゴ食べる?  

外人さんって自由ですよねという話です。

以前には手ぶらで片手にリンゴいっこを持ったジーパンにTシャツの白人男性若者が動いてる電車ん中でつり革につかまりながらおもむろにリンゴかじってるのを見たことがあります。
おまえもしかして家出るとき荷物も持たんとリンゴいっこだけ持ってぷらっと出てきたんかい。
もしくは行きがけに八百屋でリンゴいっこだけ買うてきたんかい。
それよりおまえそれ食べ終わったら芯どうするつもりやねん。
食べたあと手ェどこで洗うつもりやねん。
どんだけ自由やねん。
と思いながら見ていたのですが、ちょうど食べ終わる頃に列車が新宿に着いてその若者も大勢の人に混ざって降りていって見えなくなりました。

でももし家か八百屋にバナナしかなかったら彼はリンゴではなく手ぶらにバナナを持ってぷらっと電車に乗り込んでそれを食べたのかも知れない。
それで新宿に着く前に食べ終わってバナナの皮だけ持って立っていたのかも知れない。
と思うとリンゴであっただけまだマシなのかも知れない、という気持ちになりました。

ものは考えようということですね。
アップルだけにThink Differentですね。


背筋が凍る思いをしましたので先に行きますね。

また亡くなったシリーズで恐縮なのですが、おとつい亡くなって残念だったのがピート・コージーさんです。
70年代中盤のアガルタ/パンゲア時代のマイルス・デイヴィス・バンドにいて凶悪なギターを鳴らしていたあの人です。
フィル・アップチャーチと同じくシカゴ・ネイティヴです。

マイルス・バンドでのプレイは聴いたことある人多いんちゃうかと思うのですが、個人的にはマディ・ウォーターズがサイケ・ロック化したので有名な『Electric Mud』とかのバックでのヤサグレた音を聴いて欲しいと思います。

Muddy Waters - Ramblin' Mind

こんなふうに皮膚がゾワッとしてウブ毛が逆立つみたいな異質な鳴りをギターから発せられる人ってあんまりいなかった気がしますね。
ジャズからブルースからロックまでを一気に串刺しにできるようなキャラクターだったのですが、70年代にリーダー作がないというのは残念なことです。

上のアルバムは『Electric Mud』路線の第2弾で、アルバム名が『After The Rain』。
今週のFunk 裏 Recommendで書いたテリー・キャリアーのアルバムと同じCadetレーベル産、リズム・セクションも同じフィル・アップチャーチ(g)、ルイ・サターフィールド(b)、モリス・ジェニングス(ds)というシカゴ・ブラザーズ。
そしてこれもチャールズ・ステップニーの傑作プロデュースのうちのひとつなのです。

ブルースに抵抗があるジャズ系、ロック系の人とか、この辺の邪道なブルースから入ってみるのもオモロいんちゃうかと思いますよ。
去年くらいに久しぶりにCD化もされましたので。
ほんまはサクブラWebで取り上げたいアルバムなんですけど、ホーンが入っていないので手も足も出ません。
しかしCadetからピート・コージーのアルバム出しといて欲しかったな。




というわけで今週からCadet特集です。
またもや個人的趣味まるだしな感じで恐縮ですが。
Chess傘下Argo〜Cadetのレコードはコテコテのソウル・ジャズからレア・グルーヴまで愛好する自分のような人間にとってはたまらん魅力で、集めてた時は楽しかったですね。
しかしCadetって思ったよりホーン物が少なくて短いシリーズになりそうですよ。

テリー・キャリアーはオヤジ系のソウル・ファンにウケがいいという話は聞いたことありませんが、レア・グルーヴ〜フリー・ソウル世代以降には人気のアーティスト。
90年代のレア・グルーヴ・ムーヴメントが発掘したヒーローのひとりであります。

Prestigeに純正ブラック・フォーク・タッチなデビュー作を残したあとCadetに3枚。
その後はElectraに行きますが、誰もが認める絶頂期はCadet3部作でしょう。
代表曲「Ordinary Joe」が入ってる『Occasional Rain』に続く2作目がこの美しいジャケットのアルバム。


このジャケットが好きすぎて、オリジナルLPを買ったあとは長い間部屋に飾っておりました。
こんな曲から始まります。

Terry Callier - Dancing Girl

これイイ動画ですね。
この冒頭のギターのアルペジオと優しい歌声を聴くたびに胸がきゅんとしますね。
オッサンのくせに気持ち悪いと言われようがきゅんとするものはするのです。

2曲目はこんな感じ。

Terry Callier - What Color Is Love


この下品でない慈しみのようなものがジワーと広がっていくような感じ、たまりませんよ。
熱いお風呂の中で耐えきれずおしっこするとこんな風なジワーとした悦びが感じられますよね。

このアルバム収録ではありませんが、テリー・キャリアーの代表曲なのがこちら。

Terry Callier - Ordinary Joe



最後に最近のライヴ映像も。
ベス・オートンがゲスト参加したイギリスでのライヴです。
日本にもBlue Noteとか、毎年のように来てますね。
人柄がにじみだすようなあたたかなヴァイブがたまりません。

Terry Callier & Beth Orton - Dolphins (Live)


彼がCadetに残した3枚のアルバムはキャリアーの歌心とステップニーの才能が作り上げた不滅の名作であり、そのいずれもが70年代初頭のほんのいっときしか存在し得なかった、あの奇蹟のようにやさしく美しい世界が生み出した芸術のひとつなのであります。




長くなってしまいました。
ではまた来週もがんばります。